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2017年9月25日月曜日

”D”と呼ばれた男

結果が出せない選手、
試合で負けた選手、

これらを「慰める」という行為を競技生活が長い人の中には好まない人が多い。
僕もその一人である。

「頑張ってればそのうち結果がでるよ」
まあ聞こえはいいが、
長く競技をやっていれば「実力があっても結果が出ないまま去る人」なんて色々見て、
これが如何に綺麗ごとなのかが身にしみる。

そもそもスポーツだって将棋だって「実力者」でありながらメダルやタイトルには縁がない人がたくさんいる。
たとえば女子の10km走およびマラソンの現世界記録保持者であるポーラ・ラドクリフ、
彼女は絶対的な実力者でありながら引退までオリンピックでは一切メダルと縁がなかった。
将棋だと「タイトル決勝6戦0勝」という記録をもっている森下卓九段や木村一基九段がいるし、
羽生世代等の一流所にも劣らない生涯成績でありながら順位戦A級すら未経験である中田宏樹八段もいる。

「結果は水物」
麻雀なんてもっとそうなる。
「結果に恵まれない強者」なんてのは協会だけでもゴロゴロいる。
よって競技選手が長くなるほど負けた人に気はつかわなくなる。
「お前は強いよ」なんて言葉は慰めにならないとわかっている。
負けている人は煽るし、勝っている人には賛辞をおくる。皆そんな物なのだ。



さて、
今から約9年前、第三十三期に最高位戦に入った浅井裕介という男がいる。
彼はとにかく競技にて勝てない事で有名な男だった。

最高位戦に入ってから最初の6,7年、
彼は毎回参加を続けながら昇級経験が一切無かった。
最下層リーグを長く続けていれば結果に恵まれた年に1回位は昇級するものなのだが、とにかく勝てなかった。
そして入った当初のC2リーグを抜けれないどころか新設されたリーグに降級を続けていた。

メンバーとして長年生活をしてきた。麻雀が弱かったら出来る事ではない。
多くの競技大会に参加してきた。一度くらいチャンスがきても不思議ではなかっただろう。
それでも彼は勝てなかったのである。

とある年の事、
坂本大志を主とした最高位戦・協会有志で毎年主催をしていた大会、「ツインカップ」での出来事である。

その年またもやリーグ戦に勝てず、新設されたDリーグに浅井は降級をしていた。
「自分は勝つに値する力があるはずだ」という自信と
「自分には決定的な物が足りないのだろうか」という不安
そんな彼の葛藤、同じ競技選手として運営陣は痛いほど良くわかっていた。

慰めなんて意味は無い。
それでも何か出来る事はないだろうか?
皆でそう考えた。

そしてツインカップ当日

運営陣
「浅井よ、君が勝てないのは名前の画数に問題があるのでは?と思い、名札を三つ用意した好きなのをつけてくれたまえ」

苦笑いしながら普通に「浅井 裕介」と取ろうとした彼に、
「空気読んで」と半パワハラでお願いして3種類の名札を使って貰った事を良く覚えている。

さて、
そんな「負ける男の代名詞」だった浅井だが、2年ほど前から豹変したのである。
Dリーグから立て続けに昇級を重ね、
現在B2リーグ昇級に王手をかけている状態、
これは最高位戦の珍事(?)としてひそかに話題になっていた。

そんな彼が今回ベスト8に残った事を知った時、
「このまま勝っちゃうんじゃね?」とか思っていたのは僕だけではなかっただろう。
そして本当に勝ったのを知った時、古くからの彼を知っている多くの選手が喜んだ。



競技麻雀なんて、長く続ければ勝つとは限らない。
負ける事もあるし、負け続ける事だってあるし、そのまま一生勝てない事だってある。
競技を愛したまま勝てずに引退した例は幾つも見てきた。

長くやってて報われたほうがむしろ珍しい例である。
いやこうなってみるとたかだか9年なんて長いともいえないかもしれない。
それでもやはり長い間彼が葛藤と信念で競技を続けてきた事は想像に難くない。

改めておめでとう、
この記事にてそれを記したい。

というかね、
やっぱ彼がツインカップの直後から急変して勝ち始めたの考えると、
「画数が悪い」って我々の予想、そしてあの行動は正しかったと思うのです。
つまり浅井躍進の原動力は我々ツインカップ運営陣という説があるのです




浅井さん、お礼の品をお待ちしてます!キリッ


さて最後だけ真面目な話

我々って勝ったら祝福されるのは当たり前なんですね。
僕の目から認めてない打ち手であっても僕は「おめでとう」って言う。それは礼儀であり、そこを否定したら本当にもう競技麻雀は意味をなさなくなるから。
でも負けた人を直接煽るのって、多分その人を打ち手として信頼してないと出来ないのです。

「コイツはにはいつか勝つ力がある」
選手同士の煽りとは、そういった信頼から生まれるのかもしれない。

浅井を煽ってた彼の周りの数々の人達が今回心から喜んでいる姿を見て、
僕はそう思ったのでありました。

おしまい